【エピソード20】販売価格で衝動買いした腕時計② タグホイヤー カレラ クロノグラフ

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TAG Heuer CV2010.BA0786 Carrera Automatic Chronograph

値段を見て腕時計を買うことは、決して勧められる行為ではない。
そう書いたのは、確か2021年のことだったと思う。
2007年を振り返り、当時自らが犯した過ちを戒めとして記した一文であった。
しかし、そのわずか二年後、私はまた同じ過ちを繰り返してしまうのである。

いや、悪いのは私ではない。
考えてみてほしい。
かつて愛した者が困窮している姿を目にしたら、救いたくなるのが人情というものではないか。
それができる力を持っているのなら、迷わず手を差し伸べる──それが男というものなのだ。

こんなご時世に性別論を持ち出すのはどうかとも思う。
だが、このクロノグラフが“10万円そこそこ”で売られていたのだ。
理屈など吹き飛ぶ。買わずにいられるはずがない。
そう、あの時の私は確かにそう言っていたのだ。

いつものようにセカンドマーケットを何気なく眺めていたある日、
ふと目に留まった一本のクロノグラフ。
それは過去に苦い思い出を残した、あのカレラであった。

久しく意識していなかったモデルである。
ゆえに相場にも明るくなかったが、値札を見た瞬間に「安い」と感じた。
13万円を切る価格である。

タグ・ホイヤーのクロノグラフが13万円──安すぎではないか?
2023年だぞ。
ロレックス・デイトナはいくらだ? ムーンウォッチでさえ100万円を超える時代なのだ。
13万円とは、一体どういうことなのだ。
買うしかないではないか。

こうして、頭のネジが外れた中年男は“ポチる”という愚行に走ったのである。

もちろん、冷静に見れば他のショップにも似た価格帯の個体はいくらでもあった。
だが、安さに感じた“直感”と、胸の奥に燻っていた“想い出補正”が合わさったとき、
もはや選択肢は一つしか残らなかったのだ。

腕時計好きなら誰もが知っているだろう。
このモデルこそ、若き日のブラッド・ピット氏が広告塔として着用していたカレラクロノグラフである。
私は2007年に同型のブラウンを「安いから」という理由で買い、そして後悔した。
だが、心の奥底ではずっとブラックを求めていたのだ。

確かに厚いケース、馴染まぬブレス、眩しく反射する風防──
欠点はいくつもある。
だが、それを凌駕するほどの“顔の良さ”と、今なお信じがたい価格の安さ。
文句など言えるはずもない。

バルジュー7750の整った縦目配置は、もはや神のデザインなのだ。
このムーブメントをモノトーンでまとめれば、大抵のクロノは格好良くなる。


チューダーのクロノタイム、ブライトリングのオールド・ナビタイマー、
IWCのメカニカル・フリーガー、そしてSinnの103B──木村拓哉氏がドラマ「エンジン」で着用し人気モデルとなったオメガ スピードマスターデイトもバルジュー7750。
いずれも名作と呼ばれる所以は、そこに宿る魂が同じだからである。

そして私は改めて悟る。
時計を「値段」で選ぶのは愚かである。
だが、「心が動く」ならば、それに抗うのもまた愚かなのである。

このCV2010が再び私のもとにやって来たのは、偶然ではない。
それは“縁”なのだ。
機械式時計をもう買うまいと思っていたが、
この縁に出会ってしまった以上、運命に従うほかなかったのである。

冷静に考えれば“買う理由”などどこにもなかったのかもしれない。
しかし腕時計とは理屈ではなく、感情で動く生き物のようなものなのだ。
それがたとえ十数年前に後悔した相手であっても、再び出会ってしまえば、やはり手を差し伸べたくなる──このCV2010にはそんな魔力があるのだ。確かにケースは厚く、ブレスは重く、風防は反射する。だが、そのすべてが「2000年代らしさ」そのものなのである。
まだ高級時計が“憧れ”であり、ブラッド・ピットがカレラを纏っていた時代。その空気を、この一本は今も纏っているのだ。

バルジュー7750の鼓動、縦目クロノの端正な顔つき、そして「スポーティ&エレガント」を体現した当時のデザイン哲学。
どこか無骨で、潔く、そして愛おしい──まさにカレラの原型である。

値段で時計を選ぶのは愚かである。だが、心が動いたのなら止める理由もないのだ。この一本が再び私のもとに戻ってきたのは、単なる偶然ではなく“縁”というやつだろう。

次に時計を買うのはいつになるのか、自分でもわからない。だがまたいつか、あの日のように「助けたくなる」一本に出会えることを願っている。

 

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